※本連載は実体験をもとに構成しています。登場人物のプライバシーに配慮し、氏名・属性・会話内容などの一部を変更しています。
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雨の街に現れた、一輪の薔薇
「今度、ここのお店に行きませんか?」
ローズから届くメッセージには、いつも色鮮やかなスイーツのURLが添えられていた。
雨に煙る街角。
待ち合わせ場所に現れた彼女は、乃木坂46やLE SSERAFIMが好きだという言葉どおり、洗練された都会的な空気をまとっていた。
派手に着飾っているわけではない。
それでも、仕草の一つひとつに育ちの良さを感じさせる、凛とした佇まいがあった。
行き交う人の中で、彼女の周りだけ違う時間が流れているようだった。
「雨、すごいですね」
そう言って彼女が差していたのは、驚くほど大きな傘だった。
その大きな円の下に小柄な彼女が収まっている姿は、可憐で、どこか触れれば壊れてしまいそうな儚さを帯びていた。
彼女は甘いものが大好きだった。
お気に入りのタルトやマフィンについて話すときだけ、気品のある表情が少女のような笑顔へ変わる。
一方で、その瞳の奥には、現実を冷静に見つめる恋愛観もあった。
私が、自分の置かれている複雑な立場と、簡単には踏み越えられない一線があることを伝えたときだった。
彼女の視線から、ほんの一瞬だけ温度が消えた。
「……そうなんですね」
短い言葉だった。
けれど、そこには埋められない距離と、彼女が決して譲らない「自分の価値」が刻まれていた。
それでも彼女は、私と過ごす時間そのものを否定しなかった。
それが、この世界における彼女なりの礼儀だったのかもしれない。
甘い香りと、お揃いのキャップ
六月の初め。
空はまだ厚い雲に覆われていた。
多忙な私の予定に合わせ、彼女は嫌な顔ひとつせず、何度も日程を調整してくれた。
当日、急なトラブルで私の到着が三十分ほど遅れることになった。
これまで待つ側の苦しさを何度も味わってきた私が、今度は彼女を待たせてしまう。
急いで連絡を入れると、彼女は変わらない調子で返してくれた。
「早めに着くので、ゆっくりで大丈夫ですよ。待ってますね」
合流した彼女は、私と同じようなカジュアルなキャップを被っていた。
「あ、お揃いですね」
そう言って、彼女は少し照れたように笑った。
肩を並べて歩き、目当てのマフィン店へ向かう。
仕事の合間に生まれた、ほんの短い空白。
テーブルに焼き菓子が運ばれてくると、先ほどまで凛としていた彼女の目が、幼い子供のように輝いた。
バターの甘い香りに包まれながら、他愛のない話をする。
それだけなのに、張り詰めていた心が、ゆっくりとほどけていった。
「今度また、タルトのお店に行きましょう」
「次は、あのお店も気になっていて」
彼女からの誘いは途切れなかった。
約束が突然消えることも、心のないやり取りに疲れることもあるマッチングアプリの世界。
その中で彼女は、私に静かな安心を運んでくれる、数少ない存在になりつつあった。
誠実さには、誠実で返す
七月。
アスファルトが焼けるような暑さの中、彼女から一通のメッセージが届いた。
「暑い日が続きますね。今度また、お会いできそうな日はありますか?」
その真っ直ぐな問いかけを見た瞬間、私の中で一つの決意が固まった。
これ以上、彼女の大切な時間を、私の曖昧な都合で借り続けてはいけない。
彼女のように、自分の世界と価値観をきちんと持っている人には、迷いのない関係がふさわしい。
そして私自身も、この場所を彷徨い続ける日々の終わりを意識し始めていた。
「ごめんなさい。実は定期的に会う人が決まって、アプリを卒業することにしたんだ」
彼女を否定するための言葉ではなかった。
自分の未整理な立場に甘えず、正直に線を引く。
それが、彼女に返せる最後の誠実さだと思った。
最後まで、薔薇は薔薇のまま
「分かりました! またお会いできる日がくるとうれしいです」
翌日の深夜に届いた返信には、恨み言も、湿った未練も書かれていなかった。
最後まで、彼女は気品を失わなかった。
「そう言ってもらえてうれしいよ。ありがとう。お元気で」
その一文を送り、彼女とのトークルームを閉じた。
胸に残ったのは、寂しさよりも、雨上がりのような清涼感だった。
この世界には、互いに消耗する関係も、傷つけ合って終わる出会いもある。
けれど、甘いものを一緒に食べ、言葉を交わし、互いの領分を守ったまま、美しく幕を閉じる関係も確かに存在する。
雨の街に溶けていった、大きな傘。
偶然揃った、二つのキャップ。
マフィンの甘い香りと、少女のように笑う彼女。
ローズが残してくれたのは、苦い後悔ではなかった。
選ばなかった未来に漂う、穏やかで甘い余韻だった。
私はその記憶を大切に抱えながら、ようやくこの場所から日常へ戻る準備ができたのだと、静かに息を吐いた。
この出会いに使ったpatersについて
ローズと知り合ったのは、マッチングサービスのpatersだった。
もちろん、登録すれば同じような出会いが得られるとは限らない。相手の目的や価値観を確かめ、自分の立場も誠実に伝える必要がある。
私が実際に利用して感じた良かった点や注意点は、以下の記事にまとめている。
patersのサービス内容を確認したい方は、公式サイトも確認してほしい。
